古びたビルの一室に事務所を構える、小さな工務店。 その扉を潜れば、まだあどけなさの残る少年が控え目な一礼で出迎えて。 真面目が服を着ているような顔馴染みの男が、入れ違いに"仕事"へ赴き。 一番奥の窓際の席で、すまなそうに苦笑するあの人――かつて、生き方を示してくれた人――が、少し危険な"仕事"を振ってくれる。 それが彼――イリーガルとして活動するオーヴァード・羽向 景の、失われた日常だった。 切っ掛けは半年前。懇意にしていたH市支部長・矢作が失踪した。 足取りも掴めぬままにH市支部は解散となり、日雇いや他支部からの依頼で食い繋ぐ毎日。 そんなある日、H市支部に所属していたチルドレン・瀬戸口から、矢作の捜索に協力して欲しいとの依頼が舞い込む。 矢作への恩義という共通項を持つ男と少年は、賑わいの失われた工務店へ足を踏み入れた。 ――願わくは、かの日常が戻りますようにと。